ここでは免疫力とは何か?ということについて述べています。
普段よく「免疫力」という言葉を耳にすると思いますが、その「免疫力」とは何でしょうか? 分かりやすく言えば「免疫力」とは、病気を免れる力のことであり、一般的には、自分の体の外から入ってきた細菌やウイルスといった異物(非自己)を、自分自身の本来の細胞(自己)と区別して攻撃し排除する、生体の防御システムのことだと考えられています。
一般的には、この「自己」と「非自己」の識別はヒトの免疫システムを考えるうえで重要だとされています。もし細菌やウイルスだけではなく、食べ物までも含めた外部からの異物をうまく識別できず、何もかも「非自己」として見なしてしまうと、免疫システムは体外からのものを体内に摂り入れようとしないのです。
そのため、もし「自己」と「非自己」の識別が何らかの理由によりうまくいかなくなると、自分の細胞や本来敵ではない食べ物などを攻撃してしまい、自己免疫疾患やアレルギーなどが起こってしまうようになると考えられているのです。
その人体の免疫システムのかなめを担っているのは血液中の細胞である白血球です。
免疫細胞である白血球は、マクロファージ(約5%)、顆粒球(約60%)、リンパ球(約35%)に大きく分類されています。
実は免疫細胞のルーツは貪食の機能をもつマクロファージにあるのですが、ヒトの生活環境においては、マクロファージだけでは外敵を撃退することが出来ないため、マクロファージがより進化したかたちで顆粒球とリンパ球が誕生したと言われています。
単細胞生物のアメーバとおなじように異物をのみこんで処理するマクロファージからはじまり、顆粒球ができて、やがて、のみこむには小さすぎる異物を、細胞の膜にあった接着分子でとらえて凝集させて処理するリンパ球が進化しました。しかし、顆粒球やリンパ球を動かす指示をだし、さらに、それらがとらえた抗原や、あるいは感染した細胞、傷ついた細胞を修復・処理するのはやっぱり最終的にはマクロファージです。だから、マクロファージは免疫の基本といえます。マクロファージがなければ、免疫がうまく働きません。(安保徹『免疫革命』)
白血球の種類
また、からだの免疫器官のうち非常に重要なものとしては、骨髄が挙げられます。その骨髄は抗体を作り出すのに重要なリンパ球をつくり出しています。
さらに骨髄には造血作用という大切な働きもあります。その骨髄からリンパ球が胸腺や脾臓などに送られることで、体全体の免疫ステムが形成されます。ちなみに骨髄に存在する造血幹細胞は免疫細胞である白血球のルーツになるものです。
骨髄からリンパ球が送られる部位
一般的に免疫は「自然免疫」と「獲得免疫」の二つに分けられます。
「自然免疫」とはもともと生物に備わっている自然治癒力のようなもので、免疫システムの最前線であり、ウイルスや細菌などの外敵が侵入してきた際、マクロファージや顆粒球(特に好中球)が速やかに対応し、攻撃します。
「獲得免疫」は、マクロファージがサイトカインという情報伝達物質のひとつを出し、リンパ球や顆粒球に指令を出すことから始まります。
特にリンパ球は、マクロファージがサイトカインを出したり、抗原を提示したりすることで、初めて働くようになります。また樹状細胞も抗原提示に活躍します。
マクロファージや樹状細胞によって抗原提示をされると、今度はリンパ球ヘルパーT細胞がサイトカインを出して命令を発し、B細胞やキラーT細胞といったリンパ球が細菌やウイルスを攻撃するのに活躍するようになります。高熱が出て咳も激しくなるといった症状が出るのはこの時だと言われています。
その間、ウィルスに対抗する抗体をB細胞に指示して生産させ、ウィルスを撃破します。この戦いでウィルスに勝てば発熱などの病気の症状は治ります。
それと同時にB細胞がこのウィルスの情報を記憶し、再び侵入してきた時に備えるようになります(免疫記憶)。このような免疫システムのことを「獲得免疫」と言います。
獲得免疫は遭遇した病原体にしか反応せず、自然免疫ではカバーしきれない細かな病原体や細胞に入り込んだ病原体などを処理します。そのため、アレルゲン(抗原)などの異物に関わってくるのは「獲得免疫」のほうです。
つまり、自然免疫と獲得免疫の関係は、まず先天的な自然免疫があり、その土台としての自然免疫の延長線上に後天的な獲得免疫が成り立っているのだと考えられています。
近年は、未知の細菌やウイルスと闘う役割がある獲得免疫ばかりが研究の対象とされ、クローズアップされていますが、生命を維持するための根幹には、自然免疫の働きがあることを忘れてはいけません。
実は「自然免疫」と「獲得免疫」の両方とも相互に協力し合いながら働いているのであり、そのためどちらか一方ではなく、どちらもヒトにとっては同じくらい重要な免疫システムだと言えるのです。
ちなみに審良静男/黒崎知博氏は『新しい免疫入門』のなかで「免疫のはたらきは、最初に自然免疫が対応したあとに獲得免疫が出ていくというような単純な図式ではない。自然免疫と獲得免疫は、相互に、複雑に助け合って、病原体を排除している」と述べています。
また、免疫学の第一人者である安保徹氏は、免疫について以下のように述べています。
いままで一般に紹介されてきた免疫の研究というと、ウイルスのように外から侵入してくる異物に対応する免疫ばかりでした。外来抗原を問題にするものばかりだったのです。だから、免疫の基本は自己と非自己の見わけがポイントだ、と強調されてきました。しかし、古い、進化レベルの低いリンパ球を研究してくると、免疫というものが、そもそも外来抗原を認識する形に生まれてきたわけではなかった、ということがはっきりしてきます。免疫は、非自己を見わけるというよりも、自己を認識しながら、その中に異常があったときに働くことがまず基本にあって、進化してきたのです。
(安保徹『免疫革命』)
以上が「免疫力とは何か?」についてですが、「免疫力を高める」とは、体温が下がるなど、何らかの原因によって免疫機能がいちじるしく低下し、病気などにかかりやすくなっている状態から、本来人間がもつ免疫力(自然治癒力)をとり戻してあげることだと考えられます。
また、免疫力を高めるためには、細胞内の「ミトコンドリア」の働きが正常であることが非常に大切になってきます。なぜなら免疫の中心はミトコンドリアだと考えられるからです。このことについて詳しく述べているのは、『免疫力を高める生活―健康の鍵はミトコンドリアが握っている』や『究極の免疫力』、『免疫、生命の渦』などの著作がある医学博士の西原克成氏です。
さらに、免疫システムの約7割が集中しているとされている「腸」も、免疫力を高めるためには大変重要になってきます。
それに加えて、「免疫力」というと、免疫細胞である白血球が中心になりますが、近年は、人体の微生物のネットワークである「マイクロバイオーム」や、腸内細菌の多様な集まりである「腸内フローラ」といった言葉が注目されるようになってきており、体の表面や体内に生息する微生物と免疫との関係が指摘されるようになってきています。
免疫力の向上は生命力を高めることにもつながっていくため、体温を上げることや自律神経のバランスを整えることなど、日頃から免疫力を高める生活を送るようにすることは、私たちが生きていくうえで非常に大切なことだと思われます。
参考文献
多田富雄 『免疫の意味論』 青土社
安保徹 『免疫革命』 講談社インターナショナル
安保徹 『体温免疫力』 ナツメ社
上野川修一 『からだと免疫のしくみ』 日本実業出版社
審良静男/黒崎知博 『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』 講談社
西原克成 『免疫力を高める生活 健康の鍵はミトコンドリアが握っている』 サンマーク出版
西原克成 『究極の免疫力』 講談社インターナショナル
新谷弘実 『病気にならない生き方』 サンマーク出版