ここではタンパク質・アミノ酸の効果的な摂り方について述べています。
筋肉や骨、皮膚、髪、爪、歯、そしてセロトニンやドーパミンといったホルモンなども、おもな材料になっているのはタンパク質であるため、免疫力を維持し、心とからだの健康を保っていくためには、タンパク質をきちんと摂っていかなければなりません。
しかしタンパク質をきちんと摂ってアミノ酸を補充するということは、意外と難しいのです。その理由については主に以下が挙げられます。
「タンパク質」とは20種類の L-アミノ酸がペプチド結合してできた化合物のことであり、一般的にアミノ酸の数が50まではポリペプチド、50以上のアミノ酸の連なりはタンパク質と呼ばれているのです。
そのタンパク質をアミノ酸レベルにまで分解するのが主に腸から分泌される消化酵素なのですが、消化酵素が全てのタンパク質をきちんとアミノ酸に分解してくれるかといったら、そうではないのです。
このあたりのことについては、酵素栄養学の第一人者である鶴見隆史氏が『現代版 食物養生法』のなかで以下のように述べています。
食物で摂ったタンパク質は大分子なので、そのままではまったく吸収されませんが、アミノ酸は小(低)分子であり腸から吸収される大きさです。そして、タンパク質がアミノ酸にすんなり消化されればまったく問題は起こりません。
今までの栄養学ではタンパク質は腸管ではほとんどアミノ酸になると信じられてきました。ところが栄養学が発達するにつれ(実は最近ですが)、そうではなく、アミノ酸(柱一本)になる率は一〇%以内(場合によっては数%)という場合があることがわかってきました。そして、大きな分子のタンパク質や極小分子のアミノ酸の途中の段階で終わってしまうのです。
この途中の段階を窒素残留物(ポリペプチド)といいます。この窒素残留物が、実は人体に大変有害な物質であるため、この段階で消化がストップすることが問題となるのです。(鶴見隆史『現代版 食物養生法』p198~199)
そして、タンパク質が消化不良によって窒素残留物として、腸内にとどまると、腸内の悪玉菌を増やしたり、毒素を発生させたりするとされています。
そのため、肉などからタンパク質を過剰に摂り過ぎることは、アミノ酸を補充するどころか、アミノ酸を吸収できないまま、腸内環境を悪化させてしまうことになるのです。
さらにその腸内環境の悪化は、体調不良や病気やアレルギーを引き起こす原因も引き起こしてしまうのです。
したがって、ここではまず、タンパク質を摂っても全てがアミノ酸として吸収されるわけではないということを、初めてお知りになられた方は憶えておいていただきたいと思います。
ではタンパク質をアミノ酸として効果的に摂るにはどうすれば良いのでしょうか? まず一つ目は「プロテインスコア」を意識することが挙げられます。
プロテインスコアとは、食品中のタンパク質にアミノ酸がどれくらいバランスよく含まれているかを示す値のことです。
この「プロテインスコアを考えた食べ合わせ」を栄養療法の専門家である溝口徹氏はタンパク質の効果的な摂り方として勧めています。
たとえば、食品中のたんぱく質にアミノ酸がどれほどバランスよく含まれているかを示す値に「プロテインスコア」という基準がある。卵を100とすると、肉や魚は80~90と比較的高いのだが、肉や魚は火を通して食べることが多い。その結果、調理方法によって栄養素が減ってしまうことがある。
欲をいえば、肉や魚類は可能なかぎり〝生〟がいいということになる。たとえば、牛肉などはウェルダンに焼いてしまうのではなく、レアやミディアムレアくらいに焼いて食べると、たんぱく質の摂取量は高くなる。たんぱく質の吸収から考えると、魚も刺身で食べるほうが効率よく摂ることができるというわけだ。(『「うつ」は食べ物が原因だった!』p189~190)
「冷や奴にはネギとショウガが欠かせない」という人は、そこにぜひカツオ節を加えてみてほしい。カツオ節はプロテインスコア90の食材。植物性のたんぱく質である豆腐のアミノ酸バランスの欠点を補う働きをするというわけだ。
納豆を食べる際にも、「ネギとカラシ」が基本という向きもあるかもしれないが、生卵をまぜて食べるほうが、バランスとしてはいい食べ合わせということになる。
卵も火を通すとたんぱく質の構造が変わってしまう食材だが、たとえば、卵丼を食べるときも、溶いて火を通す卵を1個にして、もう1個は生卵としてうえにのせるといったことでも、摂取できる栄養素の量は変わってくる。(『「うつ」は食べ物が原因だった!』p192)
このように「プロテインスコアを考えた食べ合わせ」を考えてみることは、アミノ酸をバランスよくを効果的に摂るためのひとつの手段だといえます。
(もちろんここではプロテインスコアのために肉や魚は何でも生で食べることを推奨しているわけではありません)。
もうひとつ、タンパク質・アミノ酸の効果的な摂り方としてオススメしたいのは、発酵食品を利用することです。
発酵食品においては、微生物が分泌する酵素のちからによって、食べる前からタンパク質が分解されています。そのため、発酵食品は他の食品と比べると栄養素の消化吸収率が良いのです。
先程引用した鶴見隆史氏の『現代版 食物養生法』のなかにも、
発酵のすばらしさはタンパクが多くなること、そしてそのタンパクが限りなくアミノ酸に近くなることがあげられます。発酵食品として有名なものは、高野豆腐、おから、生湯葉、しっかり発酵させた納豆(ワラ納豆)、豆腐、生味噌又は味噌汁、がんもどき、油揚げ(厚揚げ)、すべての植物の乾物、豆ふよう、キナコ(特にキナコゲン)、かつおぶし、魚の干物等があり、これらがきわめて質の良いタンパク質となります。(鶴見隆史『現代版 食物養生法』p202~203)
と、あります。
ちなみに酵素はパイナップルなどの果物にも食物酵素として含まれていますので、パイナップルで肉をやわらかくするといった工夫などで、食物酵素をうまく利用することも、タンパク質を消化・分解しやすくすることにつながります。
そのほか、肉や魚を食べる際に、よく噛んで食べるということです。タンパク質を含めた栄養素の消化吸収率を下げないようにするためには、まず食べ物を口のなかでよく噛んで、なるべく胃腸(の消化酵素)に負担をかけないようにすることが大切なのです。