般若心経を読経する

般若心経(はんにゃしんぎょう)」は日本人に馴染いが深く特に好まれているお経です。

 

しかし、名前だけはよく耳にすることはあっても、中身についてはよく分からない、という人は意外と多いのかもしれません。お経というとお墓参りや法事のイメージや、お線香の匂 いと結びつけられてしまいますが、般若心経はそれだけではもったいないお経です。

 

なぜなら、般若心経に書かれている内容とは、死者の成仏を願うといったこ とではなく、「色即是空(しきそくぜくう)」や「空即是色(くうそくぜしき)」といった言葉で知られているとおり、「空(くう)」だからです。

 

「色」とは目に見えるもの、形あるもの、物質のことです。「空」とは、ありとあらゆるものは常に変化しているため、実体は無いということです。つまり、「色即是空」とは形あるものに実体は無いということであり、「空即是色」とは、実体がないものが物質というかたちをとって現われている状態のことです。

 

このことは、ブッダの教えにあるように、ありとあらゆる物事は変化し続けているため無常であり、全ての苦しみは無常であるものに執着することから生じる、ということと深く関係しています。

 

また、「空」を識るということは「空しい」のではなく、執着が消え去った分、いのちの全体性につながっていくきっかけになるため、反対に元気が湧いてきます。

 

「空」は物質ではなく、質量のないエネルギーに関係しているのです。この「質量のないエネルギー」は細胞内のミトコンドリアの新陳代謝にも関わってきます。

 

したがって、般若心経を読んでいる間、目を閉じ、「空」の性質を意識しながら瞑想してみるのも良いと思います。また般若心経の世界観は量子力学の分野とも関係していますので、般若心経をより深く理解したい方は、少し難しいですが、物理学における量子論を勉強してみるのも良いと思います。

 

般若心経についての詳しい知識や由来などについては割愛しますが、もともとはインドではなく中国で書かれた偽経(ニセのお経)だという説が有力です。そのため仏教の智慧が正しく書かれておらず間違いだらけだという批判もありますが、般若心経は262文字という短い中に仏教の最良の要素がたくさん詰め込ま れているため、毎日読経を行うだけで、煩悩や執着心から解き放たれ、こころが安らぐ心地がします。

 

現在、『般若心径 読む・聞く・書く 読誦CD付き』(西東社)など、読誦CDが付いている般若心経の入門書が出ていますので、CDで聴きながら簡単に般若心経を声を出して読経することが出来ます。

 

もし家族などが近くにいて聞かれるのが恥ずかしいという場合は、ヘッドホンなどで聴くのが良いと思います。読経は心の中でするのも悪くはありません が、やはり声に出しながらなるべくからだを響かせた方が、気持ちがスッキリとしますし、声を出している間、吐く息が長くなるので、自然と呼吸も深まります。

 

般若心経は声の響きを心で感じることが大切

 

また、読んでいる間、声の響きを心で感じ取ることは非常に大切です。玄侑宗久住職も「文字という一般的な知から入った教えを」、「息吹に溢れた響きへと、還元しなくてはならない」としています。また、「声の響きと一体になっているのは、「私」というより「からだ」、いや、「いのち」と云ってもいいでしょう」とも述べています。(参考 玄侑宗久『現代語訳 般若心経』

般若心経に書かれている内容について理解することも大事ですが、とりあえず最初に読んでみて、言葉の響きを体感してみることを強くおすすめします。

 

般若心経の最後の一文は「羯諦 羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶」となっており、「ぎゃーてー ぎゃーてー はーらーぎゃーてー はらそうぎゃー てー ぼーじーそわか」と一般的には読みます。

 

この一文は密教の影響が色濃いマントラだとされています。マントラについては、分かりやすい意味をそこに求めるよりも、分かりにく意味がことばによって表現されている、と考えたほうが理解しやすいと思われます。

それと同じで般若心経も、意味を深く考えるよりも、まず最初に読む習慣をつけ、慣れてきたら経文中の「般若波羅蜜多」や「諸法空相」、「空境涅槃」などの文字にそのような意味が込められているのかを自分なりに探求してみると、理解が深まり、ますます読経に熱が入るようになると思います。

 

般若心経